1980年に始まり2002年までヴェニスを取材した中で、数多くの猫たちに出会いました。かっては海運国として栄えたヴェニスでは、大敵であるネズミたちを駆除してくれる貴重な動物として猫たちは長く人々に愛され続けて来ました。古くからその愛らしい姿は絵画等にも描かれ、現代でもヴェニスで売られる絵はがきには、格好な素材として店先に並んでいます。

 近年になりヴェニスにもイギリスの動物愛護団体が活動を始め、不幸な野良猫たちの処遇改善に奔放する一方、世界状況の変化により海外から大量の資本が流入し、少しずつ良きヴェニスの面影を変えていきつつあります。猫たちも同じく、かっての生活の場を追われ、街角から姿を消し始めました。私も2002年の取材を最後に、愛すべき猫たちを撮ることを終えました。

 フィルムの中から今も私たちを見つめ続ける彼らは、経た年月を思えば既に悠久へと旅だったことでしょう。しかし今もこうして、小さなコマの中で彼らは生き続けています。

 猫たちを見ていると、今の我々のこの世界が、いかに心貧しいものか、痛感させられます。何も持たず、明日をいたずらに憂うこともせず,ただ今という瞬間を生きる大切さを、猫たちは訴え続けているように私には思えるのです。

 

 狂おしいほど恋い焦がれ続けているヴェニスとともに、すべてのミステリアスで愛らしく、そしてたくましい猫たちの思い出は、いつまでも私の記憶の中で生き続けて行く事でしょう。

 

 

Venice for the Cats

猫たちのヴェニス


Music :  マーラー アダージェット 交響曲 第5番から

映画『ヴェニスに死す」挿入曲として知られています